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相続登記で生前に知っておいたほうがいいことは?

最近では『終活』という言葉もよく聞かれるようになりました。
これは「人生の終わりを前に、伝えるべきことをあらかじめ準備しておく」というような活動で、その中には人生を終えるまでの月日を穏やかに過ごすための準備もありますが、遺産相続に関することも多くあります。

今後、所有者不明土地問題に関連し、相続登記の義務化も決まっています。
そんな中、相続人が相続登記申請をする際に手間にならないように、今のうちに出来ることはたくさんあります。


相続登記前に知っておきたいことは?

まずはどんなことをすればよいか、確認していきましょう。

所有している土地のリスト化

特に別荘など離れた場所にある土地や山林を所有している場合には、居住している場所から離れているが故に相続人も把握していない可能性があります。
権利証なども後から発見して手続が面倒になってしまった、というケースも考えられるため、そうならないようにあらかじめ所有している土地や建物をリスト化しておくことが重要です。

どの地域にあるどんな土地・建物の相続登記を行わなければならないのか、それがあらかじめわかっているだけで手続の手間を少しは減らすことが出来るはずです。

戸籍の収集

相続登記を行う場合には、被相続人(終活を行っている本人)の戸籍が出生から死亡に至るまで全て必要となってきます。
本籍地が変わらなければその収集も若干スムーズにはなりますが、本籍地も転々としている場合にはかなり面倒になってしまいます。

というのも、戸籍は本籍地の役所から取り寄せることになるからです。
本籍地が転々としていれば、それだけ辿らなければならない箇所が増え、手間も時間もかかってしまいます。

ただ、戸籍に関しては発行日の決まりはありません。
特に現在戸籍以外の改正原戸籍や除籍謄本等に関しては、既に閉鎖された戸籍となり変更が加わることは原則としてありません。
ですから、もう変更がないと確実に言えるものに関しては相続人の相続登記申請用に事前に収集しておき、必要書類と共に保管しておくのがオススメです。

自分が相続した土地家屋の登記

過去に相続した先祖の土地や建物で、登記を行っていないものがある場合にはあらかじめ自分の代での登記を済ませておく必要があります。
というのも、万一登記をしないまま死亡してしまった場合、法定相続の権利などを巡って遺産分割協議でもめることがあるからです。
揉めずに次の相続人が決まる場合でも、関係する相続人全ての同意を得る必要があり、それを証明する書類を作成しなければならないなど、様々な手間が発生してしまいます。
手続が煩雑になる原因にもなるため、もしも相続登記をしていない土地家屋がある場合には早急に手続を進めなければなりません。

法定相続になるケースを把握しておく

相続は、基本的に、法定相続になるということが原則です。

また、遺産相続の相談の際に揉めてしまうということもあり得るため、こういった不安が想定される場合には、あらかじめ遺言書を書いたり、生前贈与を行ったりして土地家屋の相続人を決めておくということも必要な準備のひとつです。

生前贈与による名義変更と相続による名義変更の違い

同じ土地家屋の名義変更でも、生前贈与による名義変更と所有者の死亡後に行う相続登記による名義変更とでは、違いがあります。
それは一体どのような違いなのでしょうか?

申請人が異なる

生前贈与と相続とでは、根本的に申請の構造が異なっています。

生前贈与の場合は譲る人と受け取る人双方による「共同申請構造」となっています。
これは、申請を行う際に両者が揃って手続を行うというもので、双方が合意したことにより成り立っているということを示すものです。

対する相続の場合は、相続人(受け取る人)のみによる「単独申請構造」となります。
既にあげる側が死亡してこの世に存在していないからです。
となると、当然あげる側が手続に参加して行うことは出来ないため、単独で行うという形になるのです。

添付書類が異なる

生前贈与と相続では、大きく違う点がいくつかあります。

まず、生前贈与の場合には重要な書類として「登記原因証明情報」と「登記識別情報」、そして専門家に委任する場合には委任状が譲る人、受け取る人それぞれ必要となり委任状は2枚準備する必要があります。
また、住民票も必要となりますが、これは受け取る人のみ準備すれば問題ありません。

相続登記の場合は「戸籍一式」「遺産分割協議書」「委任状」「住民票」等が必要となります。
委任状と住民票はいずれも相続登記をする方のもののみで問題ありません。

それぞれ相続登記の構造が異なるため、必要となる書類にも違いが出てくるのです。

登録免許税が異なる

こちらは、実は大きな差が出て来ます。

生前贈与の場合には、通常の売買による譲渡と同じように2%の登録免許税がかかってきます。

対して相続登記の場合には、0.4%の登録免許税で済むのです。

生前贈与による所有権移転登記の種類

ここまでで「生前贈与」という単語を何度か使用いたしましたが、一言で生前贈与といってもそれにはいくつかの種類があります。
その内容について、ご説明いたします。

基礎控除額110万円の範囲内で持分を贈与

毎年、110万円の範囲内であれば生前贈与に関わる贈与税は控除されることになっています。
そこで、土地全体のうち110万円の範囲内の持分を少しずつ贈与するという方法を取ることによって贈与税を節約することが出来ます。
これは「暦年贈与」とも呼ばれています。

ただし、最初からまとまった金額や土地を渡す目的があったとみなされてしまうと、50%の贈与税がかかってしまいます。
そのため、持分を贈与する方法で生前贈与を行う場合にはよく調べるか、専門家に相談して大きな負担を回避するようにしましょう。

相続時精算課税制度を利用した親から子への贈与

65歳以上の親から20歳以上の子への贈与の場合、実際に相続したときに清算し、課税されるという方法での贈与を行うことが出来ます。
通算で2,500万円までは一時的に贈与税の支払いを延期でき、それ以上の金額になると一律20%の贈与税がかかります。
この場合に注意が必要なのは「贈与時の評価額で課税される」ということです。
また、最終的には相続税の支払いが必要となるため、節税のためというよりは税金の支払いを後回しにするための贈与制度と言うことが出来るかもしれません。
土地の評価額が上がり続ける場合は節税になることもありますので、こちらも専門家に相談して利用する方がよいでしょう。

▼上記2つの制度は、どちらか片方しか選択することが出来ません。
また、変更することも出来ないため、利用の際には慎重に考えることにしましょう。

婚姻期間20年以上の配偶者間の居住用不動産の贈与

いわゆる「おしどり贈与」と呼ばれるものですが、婚姻期間が20年以上の場合、配偶者名義になっている不動産を居住用に限り無税で配偶者に贈与することが出来ます。
その金額は2,000万までと制限があり、それ以上の金額の場合には課税されます。
しかし、控除額が大きいため贈与の仕方によっては節税になることも想定出来ます。

住宅取得資金贈与

自分達が住む住宅の購入資金を、親や祖父母から贈与してもらう場合は、条件によって最大3,000万円までの贈与が非課税となります。
新築の住宅を購入しようと考えている場合には役に立つ制度と言えるでしょう。

生前に準備出来る登記には遺贈と死因贈与の2種類の方法も有効

生前、あらかじめ準備が出来る登記の方法としては、遺贈と死因贈与という2種類の方法も有効です。
これらはそれぞれ生前に不動産を誰に継がせるか指定しておく方法ですが、その内容には細かな違いがあります。
それについてご説明します。

遺贈による登記

誰に不動産を渡すのか、生前に「遺言書」を書いておくことによる贈与が存在します。
これが「遺贈」と呼ばれるものですが、これは遺言書を書く本人による一方的な意思表示とも言えます。
生前に準備を整え、その効力は死後に発動するという形です。

その手続の方法は、下記の通りです。

・手続

公証人が作成する「公正証書」の形式か、自ら作成する「自筆証書」の形式が一般的です。
いずれも作成後は自らわかりやすい場所に保管することになりますが、法務局での預かりも可能になりました。
ただし、いずれにしても親族等に「遺言書を作成し、〇〇に保管してある」ということを伝えていないと発見されずに終わってしまうこともあり得るため、遺言書を作成したことは必ず伝えるようにしましょう。

・当事者

これは「共同申請構造」となっており、当事者となるのは死亡した人の代理人と財産を譲り受ける人です。
「死亡した人の代理人」は、遺言執行者が選任されている場合にはその人が、選任されていない場合には相続人全員が共同で担うことになります。
遺言執行者は誰が選任されても問題はないことになっていますが、未成年者及び破産者は資格を有しないことになっています。

・費用

不動産の相続の場合は、原則として2%の登録免許税がかかります。
ただし、財産を譲り受ける人が法定相続人の場合には0.4%の登録免許税となります。

死因贈与による登記

自身が亡くなった後、不動産を誰かにあげるという契約を生前に行うことが出来ます。
それを「死因贈与」と言います。
これは、あげる人ともらう人双方の合意に基づく「契約」という形式になります。

・手続

この形式の場合には、契約書への検認は不要となります(自筆証書遺言による遺贈の場合は必要)。
しかし、それ以外の様々な添付書類が必要となります。
公正証書で作られていない私署証書の場合、実務上、贈与者の実印の押印や印鑑証明書を契約書に押印・添付する必要があります。
これがない場合には、贈与者の相続人全員の承諾書に実印の押印と印鑑証明書の添付が必要となってしまいます。
よって、手間でも細かな部分まで確認して契約書の作成を行う必要があります。

・当事者

執行者の指定があります。
これは契約書に記載することになりますが、その指定された人物が登記を行うことになります。
万一その記載がない場合には、相続人全員が執行者となることになっています。

・費用

この場合の不動産登記における登録免許税は一律で2%です。
例外はありません。

そのため、法定相続人に対して贈与を行う場合には遺贈の方が節税になる可能性があります。
法定相続人以外への贈与の場合には、死因贈与を行うこともひとつの方法として有効でしょう。

おわりに

最近流行っている「終活」は、単なる人生の終わりに向けた準備だけでなく、身の回りの様々なことを見直すきっかけにもなります。
自分でも忘れていた財産がぽろっと出て来たり、色々と調べることによって自分も、自分の相続人も少し得をするということもあります。
必ずしも節税に繋がるといいきれない部分もありますが、何をどれくらい持っていて、どう相続していくか、あるいは今のうちに処分してしまった方がいいのか、元気なうちに振り返って決めておけば、後々ゆったりとした老後を送れることは間違いありません。

また、相続する親族にとっても、悲しい別れの直後に煩雑な手続で疲弊するということが減り、心穏やかに故人との別れの時間を過ごすことが出来るかもしれません。

更に、今後所有者不明土地対策として相続登記の義務化も予定されています。
その対策としても所有している土地をリスト化し、手続をスムーズに行う準備をしておくことは大きな意味を持ってきます。

この機会に、まずは所有している財産のリスト化からはじめてみるというはいかがでしょうか?

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