故人の葬儀も済んで、遺産分割も無事終了。
これで一安心、と思うのははや過ぎます。
なぜなら、財産分与が終わっても登記しないと権利の確定とはいかないからです。
それを怠ると、不動産を担保にローンが組めなかったり、突然第三者に自宅を差し押さえられたりすることだってありえます。
そんな面倒なトラブルに巻き込まれないためにも、相続が発生すれば忘れず不動産の名義変更をしましょう。
今回は、相続手続きの最後のステップである相続登記の情報を、財産分与の方法や注意点を交えながらお伝えします。
マンションや土地などの不動産は、その所有者が亡くなると「相続」というかたちでのちの世代へ引き継がれます。
相続人が引き継ぐのは財産だけではありません。
借金も含め、故人が遺したものはすべて相続することになっています。
亡くなった親族に財産や負債があれば、それらを引き継ぐ資格を持つ人は誰かを特定し、しかるべきかたちで割り当てる作業が必要です。
財産の割り当ては、基本的に遺言書の内容が優先されます。
遺言がない場合は、法定相続分にしたがって分けるか、関係者が集まって協議する遺産分割協議で決定されます。
なお遺言があっても、遺産分割の協議を相続に反映させることは可能です。
遺産分割は、基本的に遺言内容に沿って行われます。
遺言では法定相続人以外の人に財産を残すことも可能で、たとえば「お世話になった〇〇さんに遺産をすべてゆずる」と遺されていれば、その内容は尊重されなければなりません。
遺言がない場合は、民法で決められた相続の範囲や順位にしたがって分けるのがもっともトラブルを生みにくく、無難な方法といえるでしょう。
民法で定める相続順位の第1位は配偶者と子どもで、それぞれ財産の2分の1ずつ受け継ぐ権利を持ちます。
第2位は親、第3位は兄弟姉妹と続きます。
主に遺言がない場合に相続人が集まって話し合い、財産の配分を取り決める方法です。
遺産分割協議では、相続人全員が参加して合意するというプロセスが大前提です。
かりにひとりでも不在者がいれば、その協議は無効となります。
協議成立とともに遺産分割協議書を作成しますが、その際相続人全員の署名押印が不可欠です。
相続人全員で話し合いを行い、財産の割り当てを決めたら、法務局で相続登記の手続きを済ませます。
不動産の所有権は所有者死亡と同時に相続人へ移るも、そのまま何もしなければ名義は亡くなった方のままです。
相続人同士ではどこの土地の何割がだれだれの分ということは分かっても、第三者にはそれが分かりません。
ゆえに世間に対して「名義を変更しました」という公示(=登記)が必要なのです。
相続登記はしておいて損はないのですが、義務ではないためそのまま放置する方も少なくありません。
登記しない理由は、「面倒だから」「忙しいから」「忘れてしまう」など人によってさまざまです。
また、「登記にメリットを感じない」という声もあります。
登記しても土地を売る予定がない、売ったとしてもお金にならないという方は、登記に消極的な傾向です。
しかし、そのままでは土地の所有権を主張する第三者が現れた場合、対抗できなくなる恐れがあるのです。
現時点では必要性を感じなくても、先々どんな事態が起こりえるか分からないと踏まえたうえで、登記するかしないかを冷静に判断する必要があります。
とくに問題も起こらなければしなくても支障を感じない相続登記。
しかし次のようなケースに遭遇したとき、「あのとき登記していれば・・・」と思うかもしれません。
マンションを相続したものの、自分が住むわけでもなく使い道もみつからなない。
維持管理費だけがかかってしまうので、「それなら売却してしまえ」という話になったとします。
しかし、この時点で登記していなければ不動産の売却はできません。
亡くなった人名義のままでは、買主から直接所有権の移転登記はできないからです。
つまり、不動産売却の前提として登記が必要となるのです。
不動産の売却は、その一瞬で勝負が決まることもあります。
売却する絶好のチャンスが回ってきたとしても、登記をしていないだけでチャンスを逃すかもしれないのです。
結果、大きな損を生み出すことになります。
なかには相続登記されないまま時代が流れ、明治時代や大正時代の所有者名義のままの土地もあります。
こうなると、相続人が何世代にもわたって存在することになり、相続人の特定も難しくなります。
相続人が特定できなければ、当然財産分与の話し合いもはじめられません。
自分の世代で登記しておかなければ、子や孫の世代にツケを残すことになるのです。
また、相続登記手続きには故人の住民票が必要ですが、役所の保存期間が5年までで、それを過ぎると手続きが非常に複雑となります。
相続登記は、遅れれば遅れるほど手続きが面倒になると思ってください。
銀行から多額の融資を受けようと思ったら、通常は不動産を担保にして抵当権を設定することになります。
この抵当権設定は、抵当権者と登記簿上の所有権者との共同申請が前提です。
つまり、相続の際に名義変更していなければ、不動産を担保にお金を借りることはできません。
どうしてもお金が必要となったとき、相続登記しなかったばかりに大変な目に遭うことだってあるのです。
相続登記は、基本的に以下のステップを踏んで行います。
1. 相続人の特定
2. 財産を分配
3. 司法書士へ依頼(※自分でする人は除外)
4. 法務局に登記申請
1~3に関しては、この順番通りとは限りません。
相続人がはっきりしている場合は、遺産分割を行った後、相続人特定のための戸籍集めをはじめる方法でもよいですし、同時並行で行っても構いません。
被相続人に子どもがたくさんいたり、離婚再婚を繰り返していたりする人ほど、相続人が多岐に及ぶ可能性があり、そうなると特定作業に時間がかかるでしょう。
相続人を確実に特定するには、戸籍を出生までさかのぼって集める作業が不可欠です。
故人の戸籍をすべて集めることで、婚姻関係やその過程で生まれた子どもの存在を明らかにできます。
戸籍は本籍地での取得が大原則で、法改正や結婚、転居などを繰り返せば本籍地は移転します。
そのため、多くの場合集める戸籍は一枚ではすみません。
相続登記の準備では、この戸籍集めがもっとも時間を要するといわれます。
必要となる戸籍の種類は以下のとおりです。
戸籍謄本: 本籍地の市区町村で管理される、全員分を記載した戸籍。
除籍謄本 :被相続人が死亡して戸籍から抜けたこと(除籍)を証明する戸籍。
改製原戸籍 :戸籍法改正前の、書き換えられていない戸籍
戸籍を追えば、故人に隠し子や養子がいても判明できるため、相続人を厳格に調べられます。
相続人がひとりならシンプルにすみますが、そうでない場合は遺言や法定相続、遺産分割協議にしたがって決めていきます。
もっとも効力を持つ遺言書も書かれていないケースが多く、実際は相続人同士が協議して財産を分与することが多いようです。
この過程で注意したいのが、あとから遺言書がでてくるなど不測の事態。
分割協議が終わった時点で遺言書の存在が判明したら、また一からやり直さないといけません。
被相続人の財産があとから判明する「財産もれ」も、まれにあります。
いずれも遺産分割と相続登記を遅らせる要因ですので、遺言書の確認と財産の特定は怠れません。
なお遺産分割協議に関する相談は、弁護士が引き受けてくれます。
専門家の立ち会いがあれば、遺産分割でもめてもアドバイスがもらえますし、協議の進行もはかどるでしょう。
遺産の割り当てでもめる要素が少しでもあれば、弁護士立ち会いでの協議をおすすめします。
相続登記は、司法書士への依頼も可能です。
司法書士への依頼は、「書類集めを含むすべての作業を一任する」と「書類集めは自分で行い、登記の申請だけをお願いする」の2パターンがあります。
前者にはすべてプロ任せでスムーズに運ぶメリットがある一方、費用が高額となります。
後者はコストカットができる分、大きな負担となる点に注意が必要です。
それぞれメリット・デメリットがあるため、どれがもっとも適切か自分の状況に合わせて判断しましょう。
相続登記の申請では、以下の書類を法務局に提出します。
戸籍関係書類:相続人が分かる戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍
住民票の除票: 被相続人死亡の事実が分かる書類
登記事項証明書: 不動産情報の書類。被相続人名義であることを証明。
相続人の印鑑証明書: 相続人全員の意思を証明する書類
遺言書 :遺言がある場合必要
遺産分割協議書:遺産分割協議した場合必要
固定資産評価書:相続財産の評価額を示した書類
登記申請書:登記の目的や相続人を記した書類
代理権限委任状:司法書士に相続登記手続きを一任した場合必要
種類が一点も不足すれば受理されないため、申請前の確認が重要です。
登記申請書の書き方は、インターネットで調べれば簡単に分かるため自分で書くのも苦労はないでしょう。
なお戸籍の原本はコピーを用意すれば返却してもらえます。
相続登記に必要な費用は、書類収集の実費と登録免許税、司法書士に支払う報酬です。
司法書士に依頼する・しないに関係なく、戸籍謄本や登記事項証明書などを取得するための実費が発生します。
相続人を特定するための戸籍謄本は、1通あたり450~750円。
必要な戸籍が多ければ多いほど、実費はかさみます。
直接本籍地へ行く必要はないため交通費などはかかりませんが、郵便代は発生します。
登録免許税とは、不動産の所有者移転登記に必要となる税金で、相続以外にも不動産売買や新築時に国に納めます。
相続登記による名義変更では、不動産評価額の1000分の4(0.4%)が税金として課されます。
例:不動産評価額5000万円の土地だった場合
5000万円×0.4%=20万円
なお、この不動産評価額は固定資産評価証明書に記載されている金額です。
全国の司法書士を対象に行った司法書士連合会のアンケート調査結果がありますので、こちらをご紹介します。
地区 | 全体の平均値 |
---|---|
北海道地区 | 60,983円 |
東北地区 | 60,667円 |
関東地区 | 65,800円 |
中部地区 | 63,470円 |
近畿地区 | 78,326円 |
中国地区 | 65,670円 |
四国地区 | 65,578円 |
九州地区 | 62,281円 |
※固定資産評価額合計1000万円の土地の相続登記の代理業務で、戸籍謄本など5通の交付請求、登記原因証明情報(遺産分割協議書および相続関係説明図)の作成および登記申請の代理をした場合
資産の数や土地の評価額にもよりますが、報酬相場はおよそ6~9万円となるようです。
先述のとおり、司法書士に支払う費用は代理をどこまでお願いするかで変わってきます。
戸籍書類集めまでお願いすれば、「調査費用」が上乗せされるため、おのずと高額になります。
相続登記の報酬に関してはガイドライン規定もなく、おのおの事務所が自由に設定しているのが実情です。
なかには料金体系が不透明なところも多いため、よく確かめたうえで良心的な料金でサポートしてくれる事務所をみつけましょう。
最後に、相続登記で心がけておきたいことを述べます。
なるべくはやい相続登記をおすすめします。
申請が遅れれば遅れるほど、手続きが複雑になりますし、面倒なトラブルに巻き込まれる事態も想定されます。
また、住民票除票の保存義務は5年までと決まっており、それ以降の登記は必要書類がさらに増えることに。
なお、戸籍法改正で戸籍保存義務が150年と長期化したとはいえ、放置すれば相続人が増えてもめやすくなります。
面倒に思っても、相続登記ははやめに済ませておきましょう。
自分で戸籍を集める場合、よくありがちなのが書類漏れです。
古い時代までさかのぼって戸籍を集めなければならないときほど、書類は多くなり、いざ提出となっても必要な戸籍が抜けていたりします。
何度も役所に足を運ばなくてすむように、必要な書類の確認を済ませたうえで収集をはじめましょう。
相続登記の手続きに関しては、法務局で教えてくれます。
また、古い戸籍は独特の筆記で書かれているため、読めないケースも少なくありません。
そんなときは、司法書士に教えてもらうか、役所の職員にたずねましょう。
司法書士に依頼する場合は、料金体系のチェックが欠かせません。
書類一枚ごとに細かく〇〇円と規定する事務所も多く、料金表をみただけでは分かりにくい部分もあるかと思います。
依頼した後はその料金設定にしたがうしかないので、事前に総額でどれくらいかかるのか見積もってもらうことをおすすめします。
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今のところその必要はない、けれど「あのときやっておけばよかった」と思うのが、相続登記です。
相続登記は相続税の支払いと違い、必ずしもやらなければならないわけではありません。
また、いつまでにしなければならないという期限もなく、いつでも申請可能です。
そのため、ついつい先延ばしになりやすいのですが、登記しておかないと上述のような「不動産を売却できない」「抵当権を設定できない」「相続人が増えて手続きが複雑になる」などの事態を招くことになります。
忙しくて時間がない方は、無理をせず司法書士にお願いして登記を済ませ、大切な財産をしっかり受け継いでください。