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相続登記の義務化について

所有者が不明な土地は、現在さまざまな場面で問題となっています。
都市部では手入れがされないために倒壊寸前の危険な建物も、手入れをすることが出来ず、場合によっては周囲に住む人々に危険をもたらすこともあります。

また、本来ならば活用し、利益を生むことができるような土地も手をつけないまま放置することで経済的な損失につながることもあります。
その対策として、2020年に民法及び不動産登記法が改正され、相続登記申請が義務化されることになり、現在協議が進んでいます。

現在ではまだ施行されていませんが、今後どのように変わっていくか、どのようなことに気をつけなければならないのか、さまざまな面から解説していきます。


そもそもなぜ義務化されることになったのか?

現在の所有者不明土地がどれくらい存在するか、ご存知でしょうか?
2016年の統計で、所有者不明土地は全国でおよそ410万ヘクタール。日本の国土は37万8000㎢なので、所有者不明土地は国土のおよそ10%にも及ぶことになります。
これらの土地は、持ち主が不明であるが故に、固定資産税や都市計画税など、土地にかかる税金を徴収することができません。
また、所有者のわからない土地は活用することも出来ません。本来ならば施設を建てたり区画整理を行なって道路を作ったりできるはずの場所だったとしても、遊ばせておくことしか出来ないのです。
また、登記簿登録が行われていない土地の場合、所有者を探す必要があればそのための費用も発生します。
こういった点が経済損失となりますが、その額は2016年の統計でおよそ1800億円にも及びます。

さらに、このまま所有車不明土地が増え続けた場合の推計も出ています。
今のペースで増え続ければ、2040年には推定で700万ヘクタールもの土地が所有者不明となってしまいます。
その際の経済損失は、なんと3100億円。
2016年から2040年までの累計損失額はおよそ6兆円にも及ぶと推定されています。
これほどまでの損失を生む可能性があるという現状を鑑みて、相続登記の義務化を行い、所有車不明土地の増加を食い止めようとしているのです。

なぜ相続登記の行われない土地が発生するのか?

そもそも、相続登記がきちんと行われていれば、所有者が不明の土地が発生することはありません。しかし、きちんと相続登記が行われないことにはさまざまな原因があります。
相続の対象となった土地が資産価値のあるものであった場合、誰もがその土地を相続したいと思うでしょう。
しかし、全ての土地に価値があるとは限りません。
例えば、自動車での移動も困難なほどの山奥にある土地。
あるいは、家屋が古すぎて取り壊さなければならないため、解体費用が数百万円かかってしまう土地。
すでに離れた場所に家を建てているために、相続した土地に住めないという場合もあるでしょう。
こういった場合、名義変更をためらう人が現れます。

相続登記を行う場合には、少なからず費用が発生します。
自身で相続登記のための書類を作成した場合は多少の費用を抑えることができますが、提出書類を揃えるための出費はかさみます。
行政書士に登録の代行を依頼した場合には、報酬のための費用も発生してきます。
また、決して少なくない費用をかけて相続登記を行うと、今度は所有することになった土地に固定資産税や都市計画税などの税金がかかることになり、その土地が利益を産めない限りは年々出費が増えていくことになるのです。

こういった事情もあり、相続登記を行わないケースが発生してしまうのです。
現行の法律では、相続登記を行わないことによる罰則規定はありません。
もちろん、役所が本気を出して調査を行えば戸籍をたどって土地の所有者としての資格を持つ人を見つけることは可能です。
しかし、そのためにかかる費用が決して安くなく、また、たとえ発見出来たとしても、長期間放置されてしまった土地の場合は所有権を持つ資格のある人物がねずみ算式に増えてしまっていて、相続の協議を行えない場合もあります。
統計によると、50年間登記の行われていない土地は、大都市では6%、中小都市では26.6%にも及ぶと言われています。
経済損失や事故にも繋がりかねない所有者不明土地問題は、待った無しの検討課題だったのです。

相続登記申請の義務化により罰金が科される?

相続登記が義務化されることにより、一定期間のうちに相続登記が行われない場合、罰金が科されることになります。
検討の当初、ペナルティとして科されるのは「過料」になるかと思われていました。
※過料とは:行政処分による金銭罰のこと。処分としては比較的軽く、刑罰でもありません。そのため、前科がつくこともありません。

しかし、過料では処分が軽く、相続登記の義務化を行なっても登記が進まない可能性もあります。
そのためか、罰金を科すという方向で現在は検討が進められています。
※罰金とは:1万円以上の刑事処分のこと。処分としては比較的重く、刑法にも定められた刑罰、財産刑の一種。前科もつきます。

現時点ではまだ協議中であり、金額も具体的には決定していません。
どういった仕組みで処分を行うかということも確定していませんが、いずれにしてもより重い処分として検討が進められているようです。

施行時期はいつになる?

民法及び不動産登記法の改正は、2020年に実施される予定です。
相続登記申請の義務化自体はそのときに行われることになりますが、決して軽い罰ではない上、全ての国民が対象となる可能性があります。
そのため、改正が行われたのち、しばらくの周知期間を設けた上で施行されることになりそうです。
同様の法改正には消費税の10%への増税があり、このように国民の生活に大きな影響を及ぼす問題に関してはそれなりに長い時間をかけて周知していくことになっています。
相続登記の義務化についても同様になると考えられますが、その期間については今後決定されることになるでしょう。

改正から施行までの間に駆け込み申請が増える?

これは若干余談になりますが……
平成29年12月、NHK受信料の未払い問題について、とある判決が出ました。
その判決において、被告はテレビを設置した時点からの支払い義務があるとされ、さかのぼって受信料を支払うことという結論が出されたのです。
この判例はそれだけのものなのですが、その後日本人の国民性がよく現れた現象が起こりました。
なんと、判決が出たあと、自主的な受信料の支払いが10万件も増えたというのです。
自分も同じような判決が下ったら困る、ということももちろんあるのでしょう。
しかし、日本人は真面目な人が多いため「義務」を意識すると自主的に行動する人が多いのです。

この判例と同じように、相続登記申請の「義務」化が決定すればその義務を果たさなければならない人が「そういえばまだ登記を行なっていなかった」と意識することになるでしょう。
もちろん、全員が必ず登録することはないでしょうが、未登録の土地がある人が改正法の施行前に駆け込み登録を行う可能性が発生してきます。

その際に気になるのが、駆け込み申請の増加により登録にかかる時間が伸びてしまうことです。
せっかく申請したのに登録に時間がかかりすぎて間に合わなかった、ということがあっては困ります。
登録申請にどれくらいの時間がかかるかということは、その時の申請数などの状況を見て法務局が通知を出します。ですので、どれくらいの期間が必要となるか、その目安はあらかじめわかるようになっているため、逆算して準備期間を設けることが出来るはずです。
とはいえ、申請内容の修正が発生することもありますので、時間に余裕を持って申請するようにしましょう。

相続登記の義務化によって遺産分割協議の期間が制限されるようになる?

相続登記の申請を行うにあたって、連動して発生してくるのが遺産分割協議です。
登記簿登録に必要となるのは土地と建物の所有者を明確にすることだけですが、遺産にはそのほかにも貯蓄などさまざまなものがあります。
法定相続に基づいてこれらの遺産を分割する場合、相続人全員で相談を行う必要があります。そしてその協議で土地や家屋の相続人が決定し、遺産分割協議書を作成したのちに、相続登記を行わなければならないのです。

現行法においては、相続登記の申請は義務化されていません。
そのため、遺産分割協議に関しても特別に急ぐ必要はなく、定められた期限というものも存在していませんでした。
しかし、相続登記が義務化されれば当然期限も区切られることになります。
そのため、遺産分割協議に関しても事実上期間が制限されることになるのです。

その期間については、現状はまだ確定していません。
いくつかの案が浮上していて、3年、5年、10年のいずれかになると思われます。
いずれにしても、法改正の検討中ということもあり、最終的にどのような決定がなされるのかは注目する必要がありそうです。

不要な土地は放棄できるようになるのか?

全ての土地は、必ず所有者が登記されています。
そのため、基本的には土地を放棄するということは不可能で、唯一土地の放棄が行われるのは相続人がいなくなった場合のみです。
遺産を相続する人物が絶えた場合や、相続の放棄を行なって土地を含め全ての遺産を手放した場合など、やむを得ない場合には放棄された土地は国家に帰属することになります。

しかし、相続登記が行われないことにより、所有者不明土地問題が発生しているということもまた事実です。
今後土地の放棄が認められないまま登記の義務化が決定すれば、生活が成り立たなくなるケースも発生する可能性があります。

ところが、土地の所有権の放棄は簡単に認めるわけにはいきません。
土地を放棄したい理由として大きいものの中に、固定資産税や都市計画税などの税金の支払いが負担になるからというものがあるでしょう。
しかし、それを理由に土地の放棄を行うというのは、ともすれば税金逃れとなってしまう可能性もあります。
そういったモラルハザードの防止のためにも、土地の放棄を認める条件は綿密に決定する必要があります。

また、放棄した土地の受け皿をどうするかということも大きな問題のひとつです。
現在はやむを得ない事情の場合には国家に帰属する土地となることになっていますが、それ以外の理由で土地を放棄することになる場合にも同様にしてしまっては、やはり無駄な土地を増やすことにつながってしまいます。
そのため、その土地を誰が活用するのかということも考えなければならないのです。

相続人のいない土地を活用できるようにする方法

相続人のいない土地に関しては、まずは法的にその土地の相続権を持つ人物を発見しなければなりません。
本来は遺族が相続することになりますが、遺族が相続権を放棄したり、そもそも遺族がいなかったりする場合には、その土地は国家に帰属することになるのですが、ほかに遺産を相続できる人物がいる可能性があります。
その人物を特別縁故者と呼びます。
特別縁故者となることができるのは、被相続人と生計を共にしていた人物や、被相続人の看護を行なっていた人物、そのほか被相続人と特別な縁故のあった人物などです。
その特別縁故者を捜索するため、弁護士などの専門家が相続財産管理人として選任され、特別縁故者の捜索を行います。
官報を用いて呼びかけを行い、一定の期間内に相続人が現れればその後の手続きに進み、土地が相続されるという仕組みです。

もっとも、こういった手続きを行うためには、長い時間がかかります。
また、捜索や申請にかかる費用も50万から100万円と高額で、容易に行えるものではありません。
そこで、相続人のいない土地をより早く活用できるようにするため、これらの手続きをより早く、より安く行えるように変更する検討がなされています。
現行では10ヶ月かかるものを、最終的には2〜3ヶ月で行えるようにするということが目標とのことです。

また、現行法では複数の土地がある場合にも一人の相続財産管理人しかおらず、非効率的な場合もありました。
そこで、改定後にはそれぞれの土地に個別の相続財産管理人を選任し、効率的に特別縁故者の捜索を行えるようにすることも、新たに検討されているとのことです。

いずれにしても、現在よりも早く、費用も抑えて相続人を発見することができるようになれば、所有者不明のままになってしまう土地を減らすことができるかもしれません。

おわりに

所有者不明土地の問題は、放置することのできない社会問題です。
その解決方法としてまもなく施行される相続登記の義務化は、ほとんどの国民に関係する可能性のある身近な案件です。
現在ではまだ確定していないこともあるため、今後の情報収集は注意深く行う必要があるかもしれません。

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