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便利でお得な家族信託。でもそのデメリットは…?

非常に有益なものだと言われ、良いことばかりが強調されている家族信託。
ビジネス嗜好の強い専門家はむやみに導入を進めたがるきらいがあります。
確かに家族信託は資産の有効活用などの点において有効な部分もあります。
しかし本当に安全かつ万能なのでしょうか?


司法書士法人相澤法務事務所は2009年東京都板橋区にて開業2019年で10周年を迎える。
開業当初から「依頼者ファースト」を軸に少数精鋭スタッフにより事務所を運営。
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司法書士法人相澤法務事務所

司法書士法人相澤法務事務所
代表司法書士 相澤 剛

家族信託は万能ではない

結論から言ってしまうと、家族信託は決して万能ではありません。
家族信託を知ったことにより実は他制度に良さがあることに気づく場合もあります。
まずはどのような点がデメリットとなるのか、大きく2つのポイントを見ていきましょう。

受託者に身上監護の権限はない

身上監護とは、生活療養看護に関する事務を処理することを指します。たとえば、入院手続や施設入所手続の代理、医療同意、委託者である高齢者に対する虐待の見守り、詐欺事件の被害にあった場合の契約取り消しなど……こういった事務処理を行うことは、家族信託の受託者には認められていません。
そのため、確かに資産の運用という意味では役に立つ家族信託も、介護の観点から言うと必ずしもよいとは言えないことになります。

対策としては、成年後見制度との連携を考えるというものがあります。
事前に任意後見契約の締結をしておき、身上監護を確保するというものです。
公証人役場に行き、公正証書を作ることで事前に自分達で後見人を決めておく制度のことを「任意後見契約」と言います。

通常の成年後見制度では裁判所が後見人を決定するため、必ずしも親族が後見人になれるとは限りません。
ですが、任意後見契約で事前に決めておけば、いざ認知症が発症した際に親族が後見人となり身上監護を行うことが出来るのです。
いずれにしても、認知症が発症してしまってからでは遅いため、あらかじめ行動しておくことが必要になります。

もっとも、通常は「子」や「家族」であれば入院・入所の手続を行うことは出来ますので、実質的には受託者が子や家族であれば身上監護に関してはあまり神経質にならなくても問題ないかもしれません。

遺留分は無視できない。

遺留分とは、配偶者や子など、一定の範囲の相続人に法律上残しておこなければならない相続財産の一定の割合のことを指します。親や祖父母等の尊属は3分の1、それ以外は2分の1の割合が認められています。
これにより、遺産の全てを信託するということは危険と言えるでしょう。

もっとも、対策として、遺留分減殺対象財産の順序指定を遺言で決めておくやり方が存在します。遺留分を無視して信託行為を行った場合、どの財産が減殺対象となるかを決めることは出来ませんが、遺言を活用することに

よって、信託の欠点を補うことが可能になります。
また、任意後見を利用することでも目的を達成出来る場合もあります。

いずれにしても、家族信託のみでは決して万能ではないということです。

家族信託による税務上の直接的メリットはない

家族信託を行うことで、税務上のメリットを得られると考える人もいるかもしれません。
しかしこれは誤りで、家族信託を行うことがイコール節税と直接繋がるわけではありません。
では、節税にならない根拠はどこにあるのでしょうか?
そのうちの2種類をご提示します。

信託による不動産所得に損失がある場合、損益通算出来ない場合がある

損益通算とは、利益と損失を相殺することを指します。
たとえば、このようなケースです。

(例)賃貸不動産を信託した場合

信託から生じる総収入金額200万円
信託から生じる必要経費400万円
200万円―400万円=損失200万円

本来ならば収入がもっとあるはずで、利益が生じているつもりでした。しかし、結果的に損失が出てしまったのです。

この場合、損失を翌年へ繰り越せるケースもあります。
しかし、信託の場合は損失の翌年への繰り越しは不可とされています。信託契約が複数ある場合、信託契約をまたいだ損益通算も出来ません。
ですので、この場合は節税にはなりません。

税務当局への提出書類が増える

原則、信託財産の収益・費用、資産・負債等が記載された信託の計算書(合計表を添付)を毎年1月31日までに受託者の事務所等の所在地を管轄する税務署に提出する必要があります。

この提出書類ですが、信託契約の数が増えればその分だけ書類を作成する必要があります。
自分で作成する場合には手間がかかりますし、専門家に委託すればその数の分だけ費用もかかってくる場合があります。

そのため、たとえ節税に成功したとしても、余計な経費がかかることになり差し引きではマイナスになってしまうということも考えられるのです。

家族信託による長期の契約拘束が争族を招くことも!?

家族信託を行うことにより財産を誰に継がせるか、数代にわたって明確にすることが出来ます。
特に土地家屋については共有財産としないことで後の相続権争いや資産運用の点でメリットとなることもあります。

ところが、これは同時にデメリットにもなってしまうのです。一体なぜなのでしょうか?

後継ぎ遺贈型の受益者連続信託の際に特に問題となる

1次相続のみならず、2次、3次以降の財産継承者まで委託者の意向を反映することが出来ることが、この信託の最大のメリットです。

ところが、時の経過と共に、契約の拘束を受ける者の状況が変わったり、想定していなかった不測の事態が起こったりする可能性もあります。

状況が刻々と変化していくことは仕方がないことでもあります。ですから、未来の財産継承者のことを配慮し、不測の事態を想定した契約内容を考え、その想いを伝達し、親族関係者にも情報を共有しておく必要があります。

これを怠ってしまうとかえって争族を招くことになってしまうのです。
受益者連続信託には、30年ルールが存在しています。
新信託法(91条)において制定された「当該受益者連続信託設定の時から30年を経過した時以後に受益者が受益権を取得し、当該受益者が死亡するか、当該受益権が消滅するまでの間その効力を認める」というものです。

もしも遺言の執行者を選任していれば、死後に遺言が効力を持つ際に通知が届きます。
しかし信託にはそういった制度がないため、そもそも受益者連続信託が締結されたのが昔すぎて誰も気づかず、

後から発覚したことで争いになるということもあり得ます。
せっかく有益なはずのものも、不利益をもたらす可能性もあります。

家族信託の実務の特殊性・専門性に起因する担い手不足の問題

家族信託は、平成18年に改正された信託法によって定められたものです。
その前はおよそ80年ものあいだ改正されていなかったため、この制度が定められてからのおよそ10年強の間しか実例がないということになります。

信託法の歴史からみるとあまりに短く、事業としても成熟していない状態です。
そのため、実務上でデメリットが生じてきます。

家族信託実務の専門家はまだ少ない

平成18年の改正により定められた制度であるため、最先端の分野と言うことが出来ます。
そのため、士業者の全てがこの分野に精通しているわけではありません。

10数年の歴史しかないためか、いまだ一般に周知しきれたとは言えず、そのため利用を考える人もまだ少なく、その結果判例も少ないという状態です。

また、家族信託を専門に行っているという専門家も必然的に少なくなり、実務書などもそれほど多く出回ってはおりません。

多くの場合、新しい分野に挑戦しようとするとまずは法律を学び、過去の判例を学び、実務書で学びと、様々な資料を参照し、知識を蓄積していくことになります。

そのため、まだ判例や実務書の少ない事案については具体的な判断をするにあたり、時間がかかってしまうという難点があるのです。

特に、家族信託の実務は必要となる知識が非常に多く、ありとあらゆる分野に精通している必要があり、とても難しいものとなっています。
そのため、素人が手を出すことはもちろん、専門家でも気軽に実務を行うことは難しいのです。

1士業の力のみでは限界がある!?

実は、これも現時点では「イエス」と言わざるを得ません。
というのも、家族信託契約をオーダーメイドするために必要な知識が、あまりにも多岐にわたっているためなのです。

例えば、関係法令、税務、社会保険、成年後見等々……
多くの分野にまたがっているために、それぞれの専門家と連携をとらなければなりません。

まだ歴史の浅い分野ということもあり、判例が少なく、実務に関しても容易に進めることが出来ません。
とはいえ、逆に言えばこれから伸びていく分野だとも言えますし、多分野の専門家と連携を取ることが可能であれば、その実務もスムーズに進められることになります。

このデメリットに関しては、もう少し時間が経てば解決策が見つかると考えられます。

司法書士は実は家族信託に詳しい?

先ほど、家族信託に関してはまだ専門家が少ないという点をデメリットとしてあげました。

しかし実は、司法書士は数ある士業の中でも最先端をいっていたと言えるのです。
それは一体どういうことなのか? 詳しくご説明いたします。

司法書士は10年以上前から他の専門職能に先駆けて活動していた!

平成18年に新信託法が制定され、その直後から家族信託に関しての実務を行っていました。
そのため、実務経験も多く、知識もどんどん蓄積されていったのです。

それらの知識や実務経験を元に、平成26年4月に「一般社団法人民事信託士協会」が設立されました。
同年8月には「民事信託士」を商標登録。平成27年からは民事信託士検定を実施し、専門家の養成を行っています。

過去の判例なども定期的な研修を実施することによって共有し、どのような分野を扱い、どのような方法で解決するのかということをケーススタディとして学べる場を提供しています。

家族信託にはメリットも多い反面、家族信託ではカバーしきれないデメリットもあるために家族信託「のみ」に詳しくても依頼者に利益をもたらすことが出来ません。

そのため、メリット・デメリットをしっかりと理解した上で、依頼者の相談に対して適切な事案をピックアップし、創意工夫をした上で提案するということが必要となってきます。

そのための専門家を養成する機関として存在する「一般社団法人民事信託士協会」が民事信託のプロフェッショナルを排出しようとしているのです。
家族信託もそのうちのひとつで、専門家に相談したいというときにはこの視点から実務の依頼を行うこともよい方法かもしれません。

司法書士に依頼した場合の家族信託の報酬は高いの?

これまでにも説明してきた通り、家族信託の専門性は多岐にわたっています。
また、コンサルタント的な提案なども行わなければならないため、誰でも簡単にできる業務というわけではありません。

そのため、どうしても必要となる報酬は高くなってきてしまいます。
下記に実際の事例を挙げながら家族信託の報酬を見てみます。

(例)土地1筆(1,000万円)、建物1個(500万円)、現金2,000万円を家族信託

1)信託組成報酬     30万円~
2)信託登記      土地 固定資産税評価額の0.3%➡ 3万円
建物 固定資産税評価額の0.4%➡ 2万円
3)信託登記報酬    5万円~
4)公証人手数料    2万9,000円
5)その他実費・郵送費  2,000円~

これは、かなり安いところに依頼した場合の金額です。
それでも実費を除いても最低でも40万円以上かかることになります。
ここに加え、書類作成のために必要となる様々な資料の取得にかかる費用や、交通費なども場合によっては必要となってくるかもしれません。

そのため、家族信託の報酬は「高い」と言わざるを得ません。
しかしながら、あまり安く請け負っている事務所に頼むというのもリスクが高くなります。

これまでにもご説明した通り、信託業務というのは実に幅広い知識が必要となり、その知識を得るための研修なども多く受ける必要があります。

相当程度の時間をかけ、多くの専門家の知恵を結集してスキームを構築するため、結果として、報酬も必然的に上がってしまうということになります。

もちろん、少しでも費用を抑えられるに越したことはなく、不当に高い金額を請求されている場合には一度立ち止まって考える方がいいでしょう。

しかし、報酬額にはそれなりの理由があると考え、上記の金額を大幅に逸脱しない専門家を探すことが安全な信託への近道かもしれません。

おわりに

家族信託は非常に便利でメリットも多くあります。
しかし同時に、避けられないデメリットがあるということも事実です。
そのデメリットをいかにカバーして実りのあるものにするかということが、家族信託を賢く使うために必要なことだと言えます。

どれくらい戻ってくるのか?